Hinoki

他の生物に攻撃的に作用するフィトンチッド

 フィトンチッドは、自己防衛のためだけではなく、攻撃手段でもあります。およそ生き物は自らの勢力範囲(テリトリー)を広げようとします。それは植物も同じです。
 セイタカアワダチソウが空き地に群落をなしている様子をよく見かけます。これは他の植物に対して強力な成長阻害作用を持つ物質、すなわちフィトンチッドを分泌して、自らの勢力を拡大した結果なのです。
 しかし面白いことに、空き地一面を制覇したセイタカアワダチソウも数年も経つと、ススキなどにとって替わられます。その理由は自らが分泌した物質で自家中毒を起こすからだと言われています。
 また、コーヒーの木やニセアカシアの周りには雑草がほとんど生えないことをご存じでしょうか。これはフィトンチッドが、他の樹木の発芽や成長を抑える働きをしているからに他なりません。
 この他にもカラマツやヒノキの林に苗木を植えるとその育ちが悪いことや、リンゴ、ブドウ、桃などの果樹やナス、トマトなどの野菜には連作がきかないことがよく知られています。これもフィトンチッドが一因と考えられます。このような現象は「忌地(いやち)」と呼ばれます。 こうした働きを持つフィトンチッドは、根から地中に分泌されたり、葉から空気中に放出されて拡散されます。葉から揮散したものは、地上に落ちてから地中にしみ込み、蓄積されて他の植物に影響を与えると考えられます。
 森林のなかでは、このように激しい生存競争が展開されていますが、いつも喧嘩ばかりしているわけではありません。お互いに助けあって、害虫などから身を護ることもあります。外部の敵に対して共同で戦うわけです。